裁量労働制
労働基準法上の「みなし労働時間制」のひとつ。業務の性質上、遂行の手段や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際に働いた時間ではなく、労使であらかじめ定めた時間(みなし労働時間)だけ働いたものとみなす制度。何時に来て何時間働くかは本人の裁量になり、使用者は業務の遂行手段や時間配分について具体的な指示をしてはいけない。
種類は2つ(労働基準法38条の3、38条の4)。
専門業務型裁量労働制
省令・告示で定められた20業務に限って適用できる。厚労省の解説パンフレット(令和6年4月1日施行版)に列挙されている対象業務:
- 新商品・新技術の研究開発、人文・自然科学の研究
- 情報処理システムの分析・設計(プログラマーは含まれない、と明記されている)
- 新聞・出版の取材・編集、放送番組の取材・編集
- 衣服・室内装飾・工業製品・広告等のデザイン考案
- 放送番組・映画等のプロデューサー、ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェアの創作(他人の具体的指示に基づく裁量のないプログラミングは含まれない)
- 証券アナリスト
- 金融工学等の知識を用いた金融商品の開発
- 大学における教授研究(主として研究に従事するものに限る)
- M&Aアドバイザー(2024年4月に追加。これで19→20業務になった)
- 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士
ソフトウェアエンジニア視点では「情報処理システムの分析・設計」が該当しうるが、パンフレットは「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれません」「チーフの管理の下に業務遂行・時間配分が行われている者は対象外」と明確に線を引いている。要件分析・アーキテクチャ設計レベルの仕事が対象で、指示を受けて実装する働き方は対象外。
導入手続き: 過半数労働組合(なければ過半数代表者)との労使協定で、対象業務・みなし労働時間・健康福祉確保措置・苦情処理措置・本人同意関連など10項目を定めて、労働基準監督署に届け出る。
企画業務型裁量労働制
事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務が対象。本社の企画部門などホワイトカラーを想定した制度。専門型より手続きが重い:
- 労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数で決議
- 労基署への決議の届出
- 定期報告義務(決議の有効期間の始期から初回6か月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回)
「残業代ゼロの制度」ではない
- みなし労働時間が法定の8時間を超える設定なら、超えた分の時間外割増賃金は必要。
- 深夜(22時〜5時)・休日労働の割増賃金や休憩の規定は適用除外にならない。労働時間規制ごと外れる高度プロフェッショナル制度との大きな違い。
- 妊産婦・年少者の労働時間規定の算定には適用されない(妊産婦から請求があれば1日8時間・週40時間を守る必要がある)。
- 業務量が過大で時間配分の裁量が事実上失われている場合や、始業・終業時刻のいずれかでも使用者が指示している場合は、「みなし」の効果自体が生じないとパンフレットに明記されている。
労働時間制度の中での位置づけ
みなし労働時間制のうち「業務の性質」に着目した制度。同じみなし系でも「場所と把握困難性」に着目した事業場外みなし労働時間制とは要件の立て方が異なる。実労働時間ベースで時間帯だけ柔軟にするフレックスタイム制とは、みなしかどうかの点で根本的に別物。
2024年4月改正のポイント
制度の濫用(対象外業務への適用、長時間労働)への対策として要件が強化された。
- 専門業務型にも本人同意が義務化(従来は企画型のみ)。同意しない労働者への不利益取扱いの禁止、同意の撤回手続きの整備も労使協定の必須事項になった。
- 同意を得る際は、制度の概要・同意した場合の賃金評価制度・同意しなかった場合の処遇を明示して説明することが求められる。
- 企画型は同意の撤回手続きの整備が必須化。労使委員会の運営規程の充実(6か月以内ごとに1回の開催など)、定期報告の頻度変更。
- 健康・福祉確保措置の強化(勤務間インターバル、深夜業の回数制限などの選択肢から選んで実施)。
- M&Aアドバイザー業務の追加。
出典
- 厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」(令和6年4月1日施行版 PDF)
- 厚生労働省「企画業務型裁量労働制の解説」(令和6年4月1日施行版 PDF)
- SCSK PROACTIVE: 2024年4月施行 裁量労働制の変更点
- ヒューマンテック経営研究所: 2024年4月改正 裁量労働制の見直し(前編)・(後編)