発音式仮名遣い
明治期に主張された、現代の発音どおりに書き表す仮名遣いの方式。表音式仮名遣いとも呼ばれる。
上田万年が1903年(明治36年)の著書『仮名遣教科書』で提唱した。当時公的に採用されていた歴史的仮名遣いと対比される概念。
歴史的仮名遣いとの違い
歴史的仮名遣いは、平安時代中期以降の平安文学での表記を規範とし、その後の発音の変化にかかわらず仮名遣いを引き継ぐという原則に立つ(例: 「水」を「みづ」、「青」を「あを」と書く)。江戸時代の契沖の研究を基礎とし、明治から第二次世界大戦終結まで公的に採用されていた。
これに対し発音式仮名遣いは、表記と発音のずれが大きすぎることで国語教育に無用な時間がかかっているとして、発音どおりの表記(現代でいう「みず」「あお」に近い書き方)を主張するものだった。
明治期の仮名遣い論争とその後
上田らの主張を受け、国語調査委員会でも仮名遣い改定が検討課題の一つとなった。しかし、森鷗外らが「表記を現在の発音に合わせてしまうと言葉の由来がわからなくなる」と反対するなど、文学者・国語学者を中心に根強い反発があった。1907年(明治40年)には貴族院が発音式から歴史的仮名遣いへ改めるよう建議し、1908年(明治41年)の臨時仮名遣調査委員会で発音式仮名遣いの採用は見送られ、事実上消滅した。
なお、現代仮名遣い(戦後の1946年制定)は発音に基づく表記である点で発音式仮名遣いと共通するが、直接の系譜として制定されたものではない。